「やめる気がないからやめられない」——アルコール依存症はかつてそう語られてきました。しかし現在では、脳機能の病気であることが明らかになっています。飲酒によって脳の報酬系に異常が生じ、飲むのをやめると強い不快感が生まれるため、本人がどれほどやめたくても、自力でやめることが非常に難しい状態になるのです。
アルコール依存症の診断基準
以下の6項目のうち、3項目以上を満たす場合にアルコール依存症と診断します(ICD-10基準)。スクリーニングにはAUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)が世界的に使われています。
- 強い飲酒欲求がある
- 飲む・減らす・やめるなどのコントロールが難しい
- 飲酒を減らしたり止めたりしたときに離脱症状(手の震え・発汗・頻脈・不眠・嘔気・幻覚・痙攣など)が出る、または離脱を避けるために飲む
- 以前より多く飲まないと酔わなくなる(耐性の形成)
- 飲酒時間や酔いをさます時間が増え、それ以外の楽しみや興味を無視しがちになる
- 有害な結果(健康・仕事・家族関係への悪影響)が明らかなのに飲み続ける
否認という問題
アルコール依存症の治療で最初にぶつかる壁が「否認」です。「自分はアルコール依存症ではない」「みんなこれくらい飲んでいる」——こうした言葉は、多かれ少なかれほとんどの依存症患者さんが心の中で思っていることです。否認は意識的な嘘ではなく、病気がもたらす心理的な防衛反応であり、動機付け面接(Motivational Interviewing)を用いて変化への意欲を引き出すことが有効です。
⚠ 重要:アルコール依存症の方が急に断酒すると、痙攣・振戦せん妄(命に関わる場合があります)が起こるリスクがあります。自己判断で急に飲酒をやめず、必ず医療機関に相談してから治療を開始してください。
治療の中心は認知行動療法
残念ながら、アルコール依存症を根治させる薬はまだありません。治療の柱となるのは認知行動療法(CBT)です。当院では以下の2つのプログラムを取り入れています。
- 断酒プログラム:久里浜医療センター(神奈川県)の手法に基づく
- 減酒プログラム:肥前精神医療センター(佐賀県)の手法に基づく
本人の意思が最も重要です
アルコールは合法薬物です。たとえ依存症であっても、飲酒を強制的にやめさせることはできません。治療を継続するためには、本人の意思が何より大切です。少しでも疑問がある方は、無理に治療を始める必要はありません。まずは外来で十分に話し合ってから決めましょう。
家族の方へ
「共依存」といって、家族が無意識のうちに依存症を助長してしまうケースがあります。本人だけでなく、家族も支援を受けることが回復への近道です。アルコール依存症の家族向けの自助グループ(Al-Anon など)への参加も有効です。
📚 アルコール依存症について、もっと知りたい方へ
マンガでわかる本・ご家族向け解説書など、読みやすい入門書をご紹介します。
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参考文献・出典
- World Health Organization. ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders. WHO. 1992.
- 日本アルコール・アディクション医学会. アルコール依存症の診断治療ガイドライン. 日本アルコール・アディクション医学会. 2018.
- Babor TF, et al.. AUDIT: The Alcohol Use Disorders Identification Test. WHO. 2001.
- 久里浜医療センター. 断酒プログラム資料. 独立行政法人国立病院機構. 2020.
- Miller WR, Rollnick S. Motivational Interviewing: Helping People Change (3rd ed.). Guilford Press. 2012.
著者:長友 恭平(精神保健指定医 / よつば加納クリニック 院長)|最終更新:2026年4月

