様々な原因で脳の細胞が死んでしまったり、機能が低下したりして生活する上での支障が出ている状態が認知症です。物忘れには健康な物忘れと、病的な物忘れがあります。旅行に行ったことは覚えているがヒントなしに地名が出てこない——これは正常な物忘れです。一方で旅行に行ったこと自体を忘れている、出来事全体をすっぽりと忘れてしまう場合は病的な物忘れの可能性が高くなります。
頻度の高い4種類の認知症
認知症を引き起こす病気は数多くありますが、以下の4疾患で全体の約90%を占めます。
アルツハイマー型認知症(全体の約60%)
最も多い認知症で、男性より女性に多く発症します。年単位でゆっくりと記憶障害・理解判断力の低下が進行します。「財布を盗まれた」などの被害妄想(ものとられ妄想)や、徘徊を伴うことがあり介護者の負担が大きくなります。
脳血管性認知症(全体の約20%)
脳梗塞・脳出血後に起こります。認知症症状に「むら」があり、できることとできないことの差が激しいのが特徴です。感情コントロールが難しくなり、すぐに怒ったり泣いたりします。ゆっくりとした進行ではなく、急激に能力が落ちる段階的な進行を示すことが多いです。
レビー小体型認知症(全体の約5%)
他の認知症に比べ若い年齢での発症があります。実際には見えないものが見える幻視、歩き方が小刻みになるパーキンソン症状、夜中に大声を出すレム睡眠行動障害が特徴的です。薬への過敏性が高く、抗精神病薬で急激に悪化することがあるため注意が必要です。
前頭側頭型認知症(全体の約1%)
初期には物忘れより性格変化・行動の変容が目立ちます。協調性の欠如・衝動的行動・同じ行動の繰り返し(常同行動)が見られ、食の好みが変わることもあります。
治療について
現在のところ、上記4疾患を根治させる薬はまだありません。進行を緩やかにするお薬(コリンエステラーゼ阻害薬など)や、問題行動を抑えるお薬を使いながら、患者さんがその人らしく少しでも幸せに過ごせる環境を整えることが治療の目標です。
なお、認知症に見える状態でも、うつ病・アルコール依存症・正常圧水頭症などの治療可能な疾患が隠れている場合があります。早めの受診・鑑別が重要です。
介護をしている方へ
介護者の燃え尽き(バーンアウト)は、患者さんの生活の質にも直結します。自分が危ないと感じたとき、一人で抱える必要はありません。利用できるサービスを活用して、継続可能な介護を目指しましょう。
参考文献・出典
- American Psychiatric Association. DSM-5 Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. APA. 2013.
- Alzheimer’s Disease International. World Alzheimer Report 2019. ADI. 2019.
- McKeith IG, et al.. Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies (4th consensus report). Neurology. 2017.
- Bang J, et al.. Frontotemporal dementia. Lancet. 2015.
- 日本神経学会. 認知症疾患診療ガイドライン2017. 医学書院. 2017.
🩺 院長コメント(長友 恭平)
「物忘れが増えた」と受診される方の中には、実はうつ病が原因の「仮性認知症」のケースも少なくありません。うつ治療で改善することがあるため、早めに鑑別することが大切です。また、ご本人よりご家族のほうが変化に気づいていることが多く、家族の「なんか最近おかしい」という直感は非常に重要だと感じています。
抗認知症薬の種類と特徴
現在使われている抗認知症薬は大きく2つのグループに分かれます。いずれも進行を穏やかにすることが目的で、根本的に治す薬ではありません。
| 薬剤名(一般名) | 適応の目安 | 剤形・特徴 |
|---|---|---|
| アリセプト(ドネペジル) | 軽度〜高度 | 錠剤・口腔内崩壊錠・ゼリー剤など剤形が豊富。唯一、高度の段階まで使用できる |
| レミニール(ガランタミン) | 軽度〜中等度 | 錠剤・内用液 |
| イクセロン/リバスタッチ(リバスチグミン) | 軽度〜中等度 | 貼付剤(パッチ)。飲み込みが難しい方や、貼っているかどうかで服薬状況を確認しやすい |
| メマリー(メマンチン) | 中等度〜高度 | 上記3剤とは異なる仕組み(NMDA受容体拮抗薬)で、他の薬と併用できる場合がある。興奮や易怒性への配慮が必要な場面で選択されることもある |
ドネペジル・ガランタミン・リバスチグミンの3剤(コリンエステラーゼ阻害薬)は、認知機能検査上の効果に大きな差はないと報告されています。そのため実際の選択では、副作用の出方や剤形の使いやすさ、介護者の負担なども踏まえて主治医が判断します。
よくある質問(Q&A)
Q1. 薬を飲めば認知症は治りますか?
いいえ、現在の抗認知症薬は進行を穏やかにすることを目的としており、根治させる薬ではありません。薬物療法と並行して、生活環境を整えることが治療の目標になります。
Q2. 薬を変更・追加するのはどんなときですか?
症状の進行度合いや副作用の出方、ご本人・ご家族の生活状況などを踏まえて主治医が判断します。「効いていない気がする」と感じたら自己判断で中断せず、診察時に伝えてください。
Q3. 貼り薬(リバスチグミン)にはどんな利点がありますか?
飲み込みが難しい方でも使いやすく、貼付の有無で介護者が服薬状況を確認しやすいという利点があります。一方で、貼付部位の皮膚がかぶれることがあるため、貼る場所を毎回少しずつ変えるといった工夫が必要です。
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著者:長友 恭平(精神保健指定医 / よつば加納クリニック 院長)|最終更新:2026年4月
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