双極性障害の治療は「気分安定薬」が中心
双極性障害(躁うつ病)の治療では、気分安定薬が治療の柱です。躁状態とうつ状態の波を穏やかにし、再発を予防することが最大の目標になります。
ここでは、日本で使われる主な薬を比較し、それぞれの特徴をわかりやすく解説します。
主な気分安定薬の比較
| 薬剤 | 一般名 | 躁への効果 | うつへの効果 | 再発予防 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| リーマス | 炭酸リチウム | ◎ | ○ | ◎ | 血中濃度測定が必須・腎機能チェック |
| デパケン | バルプロ酸 | ◎ | △ | ○ | 妊娠中禁忌・肝機能チェック |
| ラミクタール | ラモトリギン | △ | ◎ | ◎ | 皮疹(SJS)に注意・緩徐増量が必須 |
| テグレトール | カルバマゼピン | ○ | △ | ○ | 薬物相互作用が多い |
リチウム:最も実績のある気分安定薬
リチウムは50年以上の使用実績があり、躁状態の治療・再発予防ともに最も強いエビデンスがあります。ただし治療域と中毒域が近いため、定期的な血中濃度の測定(0.6〜1.2 mEq/L)が必須です。
脱水・NSAIDs(ロキソニン等)でリチウム濃度が上昇するリスクがあるため、日常的な注意も必要です。
ラモトリギン:うつ相の再発予防に強い
ラモトリギンは双極性うつ病の再発予防に最も効果が高い薬剤です。特に双極II型障害(軽躁+うつ)の方に向いています。
ただし、皮疹(薬疹)のリスクがあり、まれにスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)を引き起こすことがあります。皮疹リスクを最小化するため、少量から段階的に増量することが必須です。開始用量(12.5mgや25mgなど)や増量間隔は、患者さんの状態に応じて医師が個別に判断します。
非定型抗精神病薬の併用
急性期の躁状態には、気分安定薬に加えて非定型抗精神病薬を併用することがあります。
- オランザピン〔ジプレキサ〕:躁に強い効果、体重増加に注意
- アリピプラゾール〔エビリファイ〕:躁への効果+体重増加が少ない
- クエチアピン徐放剤〔ビプレッソ〕:躁にもうつにも効果、眠気が出やすい
※ 即放剤〔セロクエル〕は双極性障害への保険適応がなく、徐放剤〔ビプレッソ〕のみ適応があります。
抗うつ薬は使えるか?
双極性障害のうつ状態に抗うつ薬を使うと、躁転(躁状態への切り替え)のリスクがあります。日本うつ病学会のガイドラインでは、気分安定薬と併用する場合のみ慎重に使用するとされています。
抗うつ薬の単独使用は原則禁忌です。これが「うつ病」と「双極性障害」で治療が大きく異なる最大のポイントです。
参考文献
- 日本うつ病学会「双極性障害(躁うつ病)の治療ガイドライン」第3版(2023年)
- Geddes JR, Miklowitz DJ. Treatment of bipolar disorder. Lancet. 2013;381(9878):1672-1682.
- Goodwin GM, et al. Evidence-based guidelines for treating bipolar disorder. J Psychopharmacol. 2016;30(6):495-553.
リチウムの血中濃度管理の実際
リチウムを服用中の方に特に重要なのが、定期的な採血による血中濃度管理です。
採血のタイミングと目標値
- 採血タイミング:最終服薬から12時間後(朝一番の採血が理想的)に測定するのが標準的です
- 治療域:急性躁病治療時は0.8〜1.2 mEq/L、維持療法・再発予防時は0.6〜1.0 mEq/L程度が目安とされますが、個人差があります。主治医の指示に従ってください
- 採血頻度:開始時は月1回程度、安定したら3〜6か月に1回程度が一般的です
リチウム中毒の症状と対処
血中リチウム濃度が高くなりすぎると(1.5 mEq/L以上を目安)、以下の中毒症状が出ることがあります。
- 手指の粗大な振戦(ふるえ)
- 強い吐き気・嘔吐・下痢
- ぼんやりとした意識・混乱
- 筋肉のけいれん・歩行困難
これらの症状が現れた場合は、直ちにリチウムを中止し、医療機関に連絡してください。
リチウムを飲んでいるときの注意点
- 水分・塩分の確保:脱水や塩分制限でリチウム濃度が上がりやすくなります。夏場の発汗・運動時は特に注意
- NSAIDs(イブプロフェン・ロキソニン等)との相互作用:市販の痛み止めでもリチウム濃度を上げる可能性があります。痛み止めを使う前に薬剤師・医師に確認してください
- 腎機能の定期チェック:長期使用で腎機能が低下することがあります。定期的な検査が必要です
妊娠・授乳中の注意事項
双極性障害の女性が妊娠を考える場合、薬の管理は非常に重要かつデリケートなテーマです。必ず主治医と相談のうえ、計画的に対応してください。
各薬の妊娠中のリスク(概要)
| 薬剤名 | 妊娠中の主なリスク | 授乳中 |
|---|---|---|
| リチウム | エブスタイン奇形(わずかにリスク上昇)。妊娠初期は特に注意。新生児中毒のリスク | 原則として授乳は避けることが推奨 |
| バルプロ酸 | 妊娠中の使用は原則禁忌。神経管閉鎖障害・認知発達への影響のリスクが高い | 母乳への移行は比較的少ないが要相談 |
| ラモトリギン | 妊娠中の気分安定薬として比較的安全とされる。口蓋裂リスクが若干増加するとの報告あり | 母乳への移行あり。要相談 |
| 非定型抗精神病薬 | 個々の薬剤・用量により異なる。妊娠合併症のリスクが一部報告されている | 薬剤による。要相談 |
薬を変えるタイミングと主治医への相談の仕方
治療を受けている中で「薬を変えてもらいたい」「効果が感じられない」「副作用がつらい」と感じることは珍しくありません。そのような場合の相談の仕方をお伝えします。
受診時に伝えるべきこと
- 気分の変化の記録:「気分日記」をつけることで、躁・うつの波のパターンを医師に伝えやすくなります。日ごとの気分を1〜10で記録し、睡眠時間・特記事項も記入する
- 副作用の具体的な症状:「なんとなくつらい」より「手が震えて仕事に支障がある」「体重が3か月で5kg増えた」など具体的に伝える
- 飲み忘れの状況:「飲み忘れがある」ことを正直に伝えることで、飲みやすい剤形や回数への変更を相談できる
薬を変えるタイミングの目安
- 現在の薬を適切な用量・期間(通常4〜8週以上)試したが効果が不十分
- 副作用が日常生活や仕事に支障をきたすレベルである
- 生活環境の変化(妊娠予定・授乳中・高齢・腎疾患の発症など)
よくある質問(Q&A)
Q1. 双極性障害に抗うつ薬は使えますか?
抗うつ薬は双極性障害のうつ相に効果があると期待されることがありますが、躁転(うつ状態から躁状態に転換してしまうこと)や気分の急速交代を誘発するリスクがあります。日本うつ病学会の双極性障害治療ガイドラインでも、抗うつ薬の単独使用は推奨されていません。気分安定薬や非定型抗精神病薬を軸とした治療が優先されます。詳細は主治医にご相談ください。
Q2. 一生薬を飲み続けなければなりませんか?
双極性障害は慢性疾患であり、再発のリスクがあることから、長期的な服薬継続が多くの場合推奨されます。ただし、発作の回数・重症度・生活環境によって、減薬・中断を慎重に検討できる場合もあります。「薬をやめたい」と感じた場合は自己判断で中断せず、必ず主治医と相談してください。
Q3. ラモトリギンで皮疹が出たらすぐに受診すべきですか?
はい、皮疹(発疹)が現れたら直ちに受診または主治医に連絡してください。ラモトリギンの皮疹のほとんどは軽微なものですが、まれにスティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)という重篤な薬疹に進展する可能性があります。早期に対応することで重症化を防げます。「少し待って様子を見よう」という判断は避けてください。
Q4. 双極I型と双極II型で薬は違いますか?
はい、タイプによって有効な薬が異なる傾向があります。双極I型(完全な躁状態あり)では、リチウムやバルプロ酸が第一選択となることが多いです。双極II型(軽躁+うつが主体)では、ラモトリギンが特に有効とされることが多く、うつ相の再発予防において高いエビデンスがあります。ただし個人差が大きく、最終的な選択は主治医と相談のうえ決定します。
著者:精神保健指定医・長友恭平(よつば加納クリニック院長)
長友 恭平(ながとも きょうへい)
精神保健指定医・精神科専門医|よつば加納クリニック院長
🩺 院長コメント(長友 恭平)
気分安定薬の選択は、副作用プロファイルと患者さんの生活状況に合わせて決めます。「リチウムは古い薬」と思われることがありますが、双極性障害に対する有効性は現在でも最も確立されたものの一つです。定期的な血中濃度の確認が必要ですが、長期的な安定に貢献できる薬です。
ちなみに、決定すること・考えること自体もコストです。毎日の食事選びをラクにしたい方は時短×健康ブログもどうぞ。
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