交通事故・性被害・自然災害・虐待・突然の死別——これらの強烈な体験のあとに、悪夢・フラッシュバック・強い緊張が続く場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD: Post-Traumatic Stress Disorder)の可能性があります。
PTSDは「心が弱いからなる」病気ではありません。強烈な体験に対する脳の正常な反応が長期化してしまった状態です。
PTSDの主な症状(4つのクラスター)
1. 侵入症状
体験した出来事が意志に関係なく繰り返し蘇ります。悪夢・フラッシュバック(まるでその場にいるような感覚で思い出す)・関連する刺激(音・匂い・場所)で強烈な苦痛が生じます。
2. 回避
トラウマに関連する思考・感情・場所・人・活動を避けます。「あの話はしたくない」「あの場所には近づけない」という状態です。
3. 認知・気分の変化
「自分が悪かった」という自責感・喜びや楽しみを感じにくくなる・他者への不信感・感情が麻痺したように感じる、などが起きます。
4. 覚醒・反応性の変化
些細な刺激に強く驚く(過覚醒)・眠れない・集中できない・些細なことで怒りが爆発しやすくなるなどが起きます。
複雑性PTSD(C-PTSD)とは
一回の出来事ではなく、長期にわたる繰り返しのトラウマ(長期的な虐待・家庭内暴力・監禁など)によって生じる状態を複雑性PTSD(C-PTSD)と言います。通常のPTSD症状に加えて「感情調節の困難」「自己否定感の強さ」「人間関係の持続困難」などが加わります。ICD-11で正式に定義されました。
治療法
持続エクスポージャー療法(PE)
トラウマ記憶を安全な環境で段階的に処理していく認知行動療法の一種です。回避をやめ、記憶と向き合うことで脳がトラウマを「過去のこと」として処理できるよう助けます。日本でも実施できる施設が増えています。
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理)
目の動き(または両側への刺激)を使いながらトラウマ記憶を処理するアプローチです。WHO(世界保健機関)がPTSDへの有効な治療法として推奨しています。
薬物療法
SSRIがPTSDの症状(特に過覚醒・抑うつ)に効果があるとされています。薬は心理療法と組み合わせることで効果が高まることが多いです。
受診の目安
- 強いショック体験(事故・被害・災害・喪失)から1ヶ月以上、上記の症状が続いている
- フラッシュバックや悪夢で日常生活が乱れている
- 「誰にも話せない」「自分だけがおかしい」という孤立感がある
- 自分を傷つけたいという衝動がある
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まとめ
- PTSDは強烈な体験への脳の正常な反応が長期化した状態であり、性格の弱さではない
- 侵入・回避・認知変化・過覚醒の4クラスターが主な症状
- PE療法・EMDRがPTSDに対してエビデンスを持つ心理療法
- 体験から1ヶ月以上症状が続く場合は専門家へ
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【免責事項】本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状が続く場合や気になることがある場合は、医療機関を受診してください。
著者:精神保健指定医・長友恭平(よつば加納クリニック院長)
参考文献
- 日本トラウマティック・ストレス学会「PTSDの治療ガイドライン」(2021年)
- American Psychiatric Association. DSM-5-TR. 2022.
- World Health Organization. “Guidelines for the management of conditions specifically related to stress.” 2013.

