👉 産後うつの全体像については「産後うつとは?症状・原因・治療を精神科医が解説」をご覧ください。
出産後、「なぜか涙が止まらない」「赤ちゃんがかわいいと思えない」「自分は母親失格だ」と感じていませんか。それはあなたのせいではなく、産後うつという病気のサインかもしれません。
産後うつは出産した女性の約10〜15%が経験するとされ、決して珍しい病気ではありません(日本周産期メンタルヘルス学会, 2017)。早期に気づいて適切な治療を受ければ、多くの方が回復できます。
マタニティブルーズとの違い
出産後に気分が落ち込むこと自体は珍しくありません。まず、マタニティブルーズと産後うつの違いを知っておきましょう。
| 項目 | マタニティブルーズ | 産後うつ |
|---|---|---|
| 発症時期 | 産後3〜10日 | 産後2週間〜数ヶ月 |
| 持続期間 | 数日〜2週間で自然軽快 | 2週間以上持続 |
| 頻度 | 約30〜50% | 約10〜15% |
| 治療 | 通常不要(見守り) | 必要(カウンセリング・薬物療法) |
| 重症度 | 軽度(日常生活は可能) | 中等度以上(育児に支障) |
2週間以上つらい状態が続いている場合は、マタニティブルーズではなく産後うつの可能性があります。
エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)でセルフチェック
EPDS(Edinburgh Postnatal Depression Scale)は、産後うつのスクリーニングとして世界的に使われている質問票です。日本でも産後健診や自治体の産後ケアで広く使用されています。
- 笑うことができたし、物事のおもしろい面も分かった
- 物事を楽しみにして待った
- 物事がうまくいかないとき、自分を不必要に責めた
- はっきりとした理由もなく不安になったり、心配になったりした
- はっきりとした理由もなく恐怖に襲われた
- することがたくさんあって大変だった
- 不幸せな気分だったので、眠りにくかった
- 悲しくなったり、惨めになったりした
- 不幸せな気分だったので、泣いていた
- 自分自身を傷つけるという考えが浮かんだ
※ 各項目0〜3点の4段階で評価します。合計9点以上の場合は産後うつの可能性があり、医療機関への相談が勧められます。
※ 第10項目に1点以上がついた場合は、点数に関わらず速やかに相談してください。
EPDSはあくまでスクリーニング(ふるい分け)であり、診断ツールではありません。9点以上だからといって必ず産後うつというわけではありませんが、専門家に相談する目安として活用してください。
こんな症状があれば受診を検討してください
- 赤ちゃんに対して愛情が湧かない、関心が持てない
- 理由のない涙が頻繁に出る
- 眠れない(赤ちゃんが寝ているときでも眠れない)
- 食欲がない、または過食してしまう
- 「自分は母親失格だ」「いなくなった方がいい」と繰り返し考える
- 赤ちゃんの泣き声に過剰にイライラする、怒りが抑えられない
- 日常の家事や育児ができなくなっている
特に「自分を傷つけたい」「赤ちゃんを傷つけてしまいそう」という考えが浮かぶ場合は、すぐに医療機関に相談してください。
どこに相談すればよいか
- 精神科・心療内科:産後うつの診断・治療を行います
- 産婦人科:出産した医療機関での相談。必要に応じて精神科に紹介
- 自治体の保健センター・子育て世代包括支援センター:保健師による無料相談
- 産後ケア事業:宿泊型・デイサービス型の産後ケア(市区町村による)
授乳中の治療について
「薬を飲んだら授乳できないのでは」と心配される方が多いですが、授乳中でも使用可能な抗うつ薬はあります。
- SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のうち、セルトラリン〔ジェイゾロフト〕やパロキセチン〔パキシル〕は母乳への移行が比較的少ないとされています
- 治療と授乳のバランスは、主治医と相談して決めることが大切です
- 「薬を飲むために授乳をやめなければならない」とは限りません
- 重度の場合は、授乳を一時中断して治療を優先することもあります
国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」では、授乳中の薬の安全性について情報を提供しています。
パートナー・家族ができること
- 「がんばって」ではなく「つらいんだね」と気持ちに寄り添う
- 育児や家事を具体的に分担する(「何か手伝おうか」ではなく「洗濯は自分がやるよ」)
- 本人が受診をためらっている場合は、一緒に受診することを提案する
- 「母親なんだからがんばらないと」「気の持ちようだよ」という言葉は避ける
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まとめ
- 産後うつは出産女性の10〜15%が経験する、決して珍しくない病気
- マタニティブルーズと違い、2週間以上症状が続く場合は受診を検討
- EPDS 9点以上は相談の目安。第10項目(自傷の考え)は1点以上で即相談
- 授乳中でも使える治療法がある——「薬か授乳か」の二択ではない
- 精神科・産婦人科・自治体の保健センターなど相談先は複数ある
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【免責事項】本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状が続く場合や気になることがある場合は、医療機関を受診してください。
著者:精神保健指定医・長友恭平(よつば加納クリニック院長)
参考文献
- Cox JL, Holden JM, Sagovsky R. “Detection of postnatal depression: development of the 10-item Edinburgh Postnatal Depression Scale.” Br J Psychiatry. 1987;150:782-786.
- 日本周産期メンタルヘルス学会「周産期メンタルヘルス コンセンサスガイド 2017」
- 岡野禎治ほか「日本版エジンバラ産後うつ病自己評価票(EPDS)の信頼性と妥当性」精神科診断学. 1996;7(4):525-533.
- 国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」https://www.ncchd.go.jp/kusuri/
- 厚生労働省「産後ケア事業ガイドライン」(2020年)
🩺 院長コメント(長友 恭平)
「もしかして産後うつかも」と思った時点で、すでに受診を検討してよい状態です。チェックリストで全項目当てはまらなくても、「しんどい」という感覚があれば相談してください。産後の診察は赤ちゃん連れでも対応しています。

