👉 SASの全体像については「睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは?症状・検査・治療を精神科医が解説」をご覧ください。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は「いびきがひどい病気」というイメージが強いですが、実は精神科疾患との関係が非常に深いことが近年の研究で明らかになっています。
「抗うつ薬を飲んでいるのに治らない」「不眠の薬を増やしても改善しない」——その背後にSASが隠れている場合があります。この記事では、SASと精神科疾患の関連と、精神科でSASを見逃さないためのポイントを解説します。
SASと関連が深い精神科疾患
| 疾患 | SASとの関連 | 臨床的なポイント |
|---|---|---|
| うつ病 | SAS患者の約20〜40%にうつ症状があるとされています。SASによる睡眠の質の低下が気分の落ち込みを悪化させる | 抗うつ薬に反応しにくいうつ病では、SASの合併を疑う |
| 不安障害 | 夜間の無呼吸イベントが交感神経を活性化し、不安症状を増悪させることがある | 夜間のパニック様症状(動悸・息苦しさで突然目が覚める)はSASの可能性がある |
| 不眠症 | SASによる中途覚醒が「不眠」として治療されているケースがある | 睡眠薬を増やしても改善しない「不眠」は、SASスクリーニングを行う |
| ADHD(注意欠如多動症) | SASによる睡眠の断片化が日中の注意力低下・多動に似た症状を引き起こすことがある | 成人ADHDの診断前にSASの除外が推奨される |
| 認知機能障害 | 慢性的な低酸素と睡眠断片化が記憶力・集中力の低下を引き起こす | 「物忘れが増えた」という訴えの背景にSASがあることがある |
なぜSASが精神症状を引き起こすのか
- 睡眠の質の低下:無呼吸のたびに脳が微覚醒し、深い睡眠(徐波睡眠)が減少する。これが気分・認知機能に影響する
- 間欠的低酸素:夜間の酸素低下の繰り返しが、脳に酸化ストレスを与え、神経伝達物質の変化を引き起こす可能性がある
- 交感神経の亢進:無呼吸イベントのたびに交感神経が活性化し、血圧上昇・不安・過覚醒が持続する
- 炎症性サイトカインの上昇:SASでは全身性の炎症マーカーが上昇し、うつ病との「炎症仮説」と合致する
精神科でSASを見逃さないためのチェックポイント
以下の項目に当てはまる場合は、精神科の先生にSASの検査について相談してみてください。
- いびきがひどいと言われる(本人は気づかないことも多い)
- 寝ても寝ても日中に眠い
- 睡眠薬を飲んでも不眠が改善しない
- 抗うつ薬の効果が乏しい
- 夜中に動悸・息苦しさで目が覚める
- 朝の頭痛がある
- BMI 25以上の肥満がある
- 首が太い(男性 43cm以上、女性 38cm以上が目安)
SAS治療で精神症状はどのくらい改善するか
- うつ症状:CPAP治療の継続により、うつ症状の有意な改善が複数のメタアナリシスで報告されています(Povitz et al., 2014)
- 不安症状:夜間の交感神経活性化の抑制を介して改善するケースがあります
- 認知機能:注意力・記憶力がCPAP使用後に改善するという報告があります
- 日中の眠気:最も早く・最も確実に改善する症状です
ただし、SAS治療だけで精神症状が完全に消失するわけではありません。精神科治療とSAS治療を並行して行うことが最も効果的です。
精神科の薬とSASの注意点
- ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬:筋弛緩作用により上気道の閉塞を悪化させる可能性があります。SAS合併患者には使用を控えるか最小限にすることが推奨されます
- オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント〔ベルソムラ〕、レンボレキサント〔デエビゴ〕):筋弛緩作用が弱く、SAS合併例にも比較的安全に使用できるとされています
- 抗精神病薬・三環系抗うつ薬:体重増加の副作用がSASを悪化させることがあります
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まとめ
- SASはうつ病・不安障害・不眠症・ADHDと密接に関連している
- 治療抵抗性のうつ病や改善しない不眠の背後にSASが隠れている場合がある
- 精神科治療とSAS治療の並行が最も効果的
- ベンゾジアゼピン系はSASを悪化させるリスクがあるため注意が必要
【免責事項】本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状が続く場合や気になることがある場合は、医療機関を受診してください。
著者:精神保健指定医・長友恭平(よつば加納クリニック院長)
著者:精神保健指定医・長友恭平(よつば加納クリニック院長)
参考文献
- Povitz M, et al. “Effect of treatment of obstructive sleep apnea on depressive symptoms: systematic review and meta-analysis.” PLoS Med. 2014;11(11):e1001762.
- 日本呼吸器学会「成人の睡眠時無呼吸症候群 診断と治療のためのガイドライン 2020」
- Saunamaki T, Jehkonen M. “Depression and anxiety in obstructive sleep apnea syndrome: a review.” Acta Neurol Scand. 2007;116(5):277-288.
- 厚生労働省「睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版」
🩺 院長コメント(長友 恭平)
「抗うつ薬が効かない」という方にSASが見つかり、CPAP治療で改善するケースがあります。睡眠の問題とメンタルの問題は切り離せないため、メンタル症状がある方の睡眠の質も丁寧に評価するようにしています。

