👉 解離性障害の全体像については「解離性障害とは?症状・原因・治療を精神保健指定医 長友恭平が解説」をご覧ください。
「自分を外から見ているような感覚」「世界にガラスの壁があるように感じる」「手が自分のものではないように見える」——こうした体験を離人感(depersonalization)や現実感消失(derealization)と呼びます。
一時的な体験は多くの人にありますが、これが持続的・反復的に起こり日常生活に支障をきたす場合、離人感・現実感消失症と診断されることがあります。
離人感と現実感消失の違い
| 種類 | 感覚 | 具体例 |
|---|---|---|
| 離人感 (depersonalization) | 自分自身に対する非現実感・分離感 | 「自分の体が自分のものではない感じ」「鏡を見ても自分とは思えない」「ロボットのように動いている」「感情がなくなった」 |
| 現実感消失 (derealization) | 周囲の世界に対する非現実感 | 「世界が霧の中にあるよう」「景色が平面に見える」「時間の感覚がおかしい」「周囲の音が遠い」 |
重要な点は、現実検討能力は保たれていることです。「自分が自分でない感じがする」けれど、「これは感覚の異常であり、実際には自分であることはわかっている」——この点が妄想や精神病性障害とは異なります。
どのくらい多い?
- 一時的な離人感・現実感消失は、一般人口の約50〜70%が生涯で少なくとも一度は経験するとされています
- 障害として持続するものは人口の約1〜2%とされています(Sierra & David, 2011)
- 発症は10代後半〜20代前半が多く、強いストレスやパニック発作をきっかけに始まることがあります
原因・きっかけ
- 強いストレス・トラウマ:心理的に耐えられない体験に対する脳の「保護反応」としての解離
- パニック発作・不安障害:パニック発作の最中や直後に離人感が起きることがあります
- うつ病:重症のうつ病で感情が麻痺し、離人感として体験されることがあります
- 睡眠不足・過労:極度の疲労で一時的に起きることがあります
- 大麻・幻覚剤の使用:薬物使用をきっかけに発症するケースが報告されています
治療法
1. 心理療法(認知行動療法)
離人感・現実感消失症に対する第一選択とされています。
- 離人感が起きる「きっかけ」と「維持要因」を特定する
- 離人感に対する「壊滅的な解釈」(「脳が壊れたのではないか」「一生治らないのではないか」)を修正する
- グラウンディング技法(五感を使って「今ここ」に意識を戻す練習)を習得する
2. グラウンディング技法
離人感が起きたときに「今ここ」に意識を戻す方法です。
- 5-4-3-2-1法:見えるもの5つ、聞こえるもの4つ、触れるもの3つ、匂い2つ、味1つを意識する
- 冷水法:冷たい水で手を洗う、氷を握る
- 強い感覚入力:ストレッチ、足踏み、スパイシーな飴をなめる
3. 薬物療法
離人感・現実感消失症に対する確立された薬物療法はありませんが、以下が試みられることがあります。
- SSRIやSNRI:併存するうつ病・不安障害に対して
- ラモトリギン〔ラミクタール〕:一部の研究で離人感の軽減効果が報告されています(保険適用外使用)
「治らないのでは」という不安について
離人感・現実感消失は「脳が壊れた」状態ではありません。脳が強いストレスから心を守ろうとする保護反応の一種と考えられています。治療によって多くの方で症状が軽減することが報告されています。
ただし、症状を過度に気にして観察し続けること自体が維持要因になることがあります。「気にしないようにする」のではなく、「気になっても放っておける」状態を目指すことが大切です。
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日常生活でのセルフケアとグラウンディングテクニック
離人感・現実感消失症の症状が強くなったとき、「今ここにいる」という感覚を取り戻すために有効とされるテクニックをご紹介します。これらは「グラウンディング(接地)」と呼ばれ、感覚を刺激することで解離状態から現実に引き戻す効果があるとされています。
感覚を使ったグラウンディング
- 触覚:冷たい水で手を洗う、氷を握る、テクスチャーのある素材に触れる(ざらざらした壁など)
- 視覚:部屋の中のものを5つ声に出して数える、鮮やかな色のものを見る
- 嗅覚:強めの香りのもの(コーヒー、ミント、柑橘系)を嗅ぐ
- 聴覚:音楽を聴く、足を踏み鳴らして音と振動を感じる
- 味覚:酸味や辛味の強いものを口にする(レモン、生姜など)
身体を動かすグラウンディング
- ゆっくり深呼吸をしながら足裏が床についている感覚を意識する
- 腹式呼吸(お腹を膨らませながら吸い、へこませながら吐く)を5回繰り返す
- 軽い運動(ジョギング、スクワット)で身体の感覚を呼び戻す
日常生活での工夫
- 睡眠の規則化:睡眠不足は離人感を強める要因の一つとされています。就寝・起床時間を一定にする
- カフェイン・アルコールを控える:これらの物質が解離症状を悪化させることがあります
- スクリーンタイムの管理:長時間のスマートフォン使用が離人感を強める方もいます
- 日記をつける:症状の強さを1〜10で記録し、どのような状況で悪化するかパターンを把握する
「治るか」という問いへの現実的な答え
離人感・現実感消失症の方が最も知りたい問いの一つが「治るのか」ということではないでしょうか。ここでは正直にお伝えします。
改善が期待できるケース
- 急性の離人感(ストレス・パニック発作・睡眠不足が原因)の多くは、原因への対処で改善するとされています
- うつ病や不安障害に伴う離人感は、基礎疾患の治療で改善するケースが多いとされています
- CBTやマインドフルネスを継続することで、症状の頻度や強度が減っていく方もいます
長期化しやすいケース
- 幼少期のトラウマが背景にある場合、症状の改善には時間がかかることがあります
- 「症状をなくそう」「正常に戻らなければ」という強い焦りが症状を維持させることがあります
- 回避行動(外出しない、人に会わないなど)が解離をかえって強化することがあります
精神科医として伝えたいこと:「症状がある状態で生活の質を保つこと」が治療の現実的な目標になることもあります。完全に症状が消えなくても、症状があることへの恐怖が減り、日常生活を送れるようになることを目指します。焦らず、治療者と歩んでください。
他の疾患との鑑別:精神科受診時のポイント
離人感・現実感消失症は他の精神疾患と重複することが多く、正確な鑑別が重要です。受診の際は以下の情報を伝えるとスムーズです。
| 疾患名 | 離人感との関係 | 鑑別のポイント |
|---|---|---|
| パニック障害 | 発作中に離人感が伴うことがある | 発作が繰り返されるか、発作時以外も症状があるか |
| うつ病 | 抑うつ気分と共に離人感が生じやすい | 気分・意欲・食欲の低下が主症状か |
| 解離性同一性障害(DID) | 離人感は伴うが人格交代・記憶空白が主体 | 記憶の空白・人格の違いを伴うか |
| てんかん(側頭葉) | 発作の一部として現れることがある | 脳波検査・神経内科的精査が必要 |
| 物質誘発性(マリファナ等) | 薬物使用後に強い離人感が生じることがある | 物質使用歴との時間的関係 |
よくある質問(Q&A)
Q1. 離人感は「精神科行き」ではないですか?怖いです。
離人感自体は非常にありふれた体験で、健常な方の約半数が一生に一度は経験するとされています。「精神科にかかる=重症」ではありません。症状が続いて生活に支障がある場合は精神科・心療内科への相談が適切です。早期に相談することで適切な対応ができ、長引かせることを防げます。
Q2. 「意識を失っている」のとどう違いますか?
離人感は意識を失っているわけではありません。「自分が見ている」「周りが見えている」という認識は保たれており、ただその体験が「遠い」「リアルでない」と感じられます。意識消失を伴う場合は神経内科的な原因が疑われ、異なる評価が必要です。
Q3. マインドフルネスで悪化することはありますか?
解離傾向が強い方では、内省的なマインドフルネス(閉眼・長時間の瞑想)が一時的に解離を強める場合があります。その場合は目を開けたまま行う「オープンアイ瞑想」や、身体を動かしながら行う「歩行瞑想」など、外部刺激を保ちながらのマインドフルネスが推奨されることがあります。担当の治療者と相談してください。
まとめ
- 離人感は「自分が自分でない感覚」、現実感消失は「世界がリアルでない感覚」
- 一時的な体験は非常に多いが、持続する場合は治療の対象になる
- 認知行動療法とグラウンディング技法が第一選択
- 脳の保護反応であり、「壊れた」わけではない。治療で改善が期待できる
著者:精神保健指定医・長友恭平(よつば加納クリニック院長)
参考文献
- Sierra M, David AS. “Depersonalization: a selective impairment of self-awareness.” Conscious Cogn. 2011;20(1):99-108.
- Hunter ECM, et al. “Cognitive-behaviour therapy for depersonalisation disorder: An open study.” Behav Res Ther. 2005;43(9):1121-1130.
- 日本精神神経学会「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」(医学書院、2014年)
- 厚生労働省「みんなのメンタルヘルス:解離性障害」
🩺 院長コメント(長友 恭平)
「自分が自分でない」「周りがリアルでない」という感覚は、強い不安やトラウマ反応の一部として現れることがあります。「自分はおかしいのではないか」と一人で抱えてきた方が多く、「その体験には名前がある」と伝えるだけでも安心される方がいます。
🆘 こころが限界を感じているとき
つらい気持ち・死にたい気持ちがあるときは、一人で抱え込まずに話してください。
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・無料)
- いのちの電話:0120-783-556(毎月10日 8:00〜翌朝8:00)
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