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👉 自傷・希死念慮の全体像については「自傷行為・「死にたい」気持ちへの対処|精神保健指定医 長友恭平が伝えたいこと」をご覧ください。
自傷行為をしている方の多くは、「本当はやめたい」「でもやめられない」という気持ちを抱えています。
まず伝えたいのは、自傷行為をしている自分を責めないでほしいということです。自傷は「わがまま」や「注目を集めるため」ではなく、つらさに対処するための方法として行われていることがほとんどです。
この記事では、自傷行為の背景にあるメカニズムから始め、衝動が来たときの具体的な対処法、専門家への相談の仕方、そして回復のプロセスまで、できる限り詳しくお伝えします。「やめたい」と思ったあなたの、その気持ちを大切にしながら読んでいただければと思います。
自傷行為はなぜ起きるのか——感情調節手段としてのメカニズム
自傷行為を理解するうえで最も重要なのは、それが「感情を調節するための手段として機能している」という事実です。精神医学の研究によると、自傷行為には以下のような機能があることが多いとされています(Nock & Prinstein, 2004)。
自動強化(自分の内側への働きかけ)
- 圧倒的な感情を和らげるため——怒り・悲しみ・不安・絶望感が強すぎるとき、身体の痛みで一時的に心の痛みを緩和しようとする。これは「感情の過負荷を逃がすバルブ」として機能している状態です
- 「何も感じない」状態から抜け出すため——解離状態(感情が麻痺している、現実感がない状態)のとき、痛みによって「自分がここにいる」「自分の身体を感じる」と確認する手段になっている場合があります
- 自分を罰するため——自責感や罪悪感が非常に強く、「自分は痛みを受けるべき存在だ」「罰せられなければならない」と感じているとき
- 興奮状態を鎮めるため——怒りや焦りが爆発しそうなとき、身体に向けることで精神的な爆発を防ごうとする
社会的強化(他者との関係への働きかけ)
- つらさを伝えるシグナル——言葉でつらさを伝えることが難しいとき、行動で表現しているケース
- 助けを求める手段——「もう限界だ」「誰かに気づいてほしい」という気持ちが行動に現れている
- つらい状況から逃れるため——学校や職場など、いたくない場所から離れる口実として機能してしまっているケース
重要なのは、どの理由であっても、自傷行為は「今のつらさに対処しようとしている行動」だということです。「弱いから」でも「おかしいから」でもありません。その痛みには必ず理由があります。
精神科医としての経験から:自傷行為をしている方が初めて診察室に来られるとき、多くの方が「先生に怒られるかもしれない」「おかしいと思われるかもしれない」と不安そうにされています。でも私は怒りません。あなたが傷つけてしまったのは、それだけつらかったからです。まずその事実を受け止めることが治療の出発点です。
自傷行為をやめるのが難しい理由
「やめたくてもやめられない」という状態が起きる理由にも、心理学的な説明があります。
- 即効性がある——自傷行為は、衝動が来てから数秒から数分で「効果」を感じられます。他の対処法と比べて、圧倒的に早く感情を和らげてくれるため、習慣になりやすいのです
- エンドルフィンの放出——自傷時には脳内でエンドルフィン(天然の鎮痛物質)が放出される場合があり、これが「依存性」を生むことがあると考えられています
- 感情調節スキルが発達しにくくなる——自傷に頼り続けると、他の方法でつらさを乗り越えるスキルが育ちにくくなる悪循環が生まれます
- 罪悪感と衝動のサイクル——自傷後の罪悪感がさらなるつらさを生み、それが次の自傷衝動につながるという悪循環があります
このような仕組みを理解すると、「意志が弱いからやめられない」のではなく、脳と身体のメカニズムが絡んでいることがわかります。だからこそ、一人でやめようとすることが難しく、専門的なサポートが助けになるのです。
衝動が来たときの代替行動——今すぐできる5つの対処法
自傷の衝動は、多くの場合15〜30分がピークです。この時間を安全に乗り越えるための方法を紹介します。すべての人に同じ方法が効くわけではないので、自分に合うものを探してみてください。
1. 身体感覚で気をそらす方法
「痛み・強い刺激」を安全に得る代替行動
- 氷を手に握る——鋭い冷たさが痛みに似た強い感覚を与え、衝動を和らげることがあります。握る場所や時間は自分で調節できます
- 輪ゴムを手首にはめて弾く——瞬間的な刺激が衝動の代替になります。ただし皮膚を傷つけるほど強く弾かないように注意してください
- 冷たい水で顔を洗う、または冷水に顔をつける——「ダイビング反射」を利用した自律神経のリセット方法です。緊急時に有効とされています(DBTの技法から)
- 赤いペンで腕に線を引く——自傷の「行為」を模擬的に行うことで衝動が和らぐことがあります。安全な代替行動として紹介されることがある方法です
- 強い香りを嗅ぐ——ミント・柑橘系など、強烈な香りが感覚を切り替えるきっかけになることがあります
2. 感情を外に出す方法
「感情を発散させる」代替行動
- 紙に気持ちを書き殴る——きれいに書く必要はありません。思いのまま書いて、その紙を破り捨てても構いません。感情を「外に出す」行為そのものが助けになります
- 枕やクッションを叩く——怒りのエネルギーを安全に発散させます。ベッドに顔を押し付けて叫ぶのも効果的です
- 声を出す——カラオケに行く、車の中で叫ぶ、枕に顔を押し付けて声を出す。声を出すことで感情が外に出やすくなります
- 激しい運動をする——腕立て伏せ、スクワット、ダッシュ、縄跳びなど。身体に負荷をかけることで、衝動のエネルギーが向かう先が変わります
- 涙が出るような映画や曲を選ぶ——「悲しんでいい場所」を意図的に作ることで、感情を安全に解放できることがあります
3. 気持ちを落ち着かせる方法
「落ち着く」代替行動
- 5-4-3-2-1法(グラウンディング技法)——今見えるもの5つ・聞こえるもの4つ・触れるもの3つ・匂い2つ・味1つをゆっくり数えます。現実に意識を戻す効果があります
- 4-7-8呼吸法——4秒かけて鼻から吸い、7秒止めて、8秒かけて口から吐きます。自律神経を整える効果があります
- 安全な場所をイメージする——自分が落ち着ける場所(海辺、山、部屋など)をできるだけ具体的に頭の中でイメージします
- 温かいものを飲む——ホットの飲み物が身体を落ち着かせます。お茶・ハーブティー・白湯など
- ペットや毛布に触れる——柔らかいものや温かいものに触れる「セルフ・スージング」は、自律神経を整えるとされています
4. 誰かとつながる方法
「つながり」で衝動をやり過ごす
- 誰かに「今つらい」と一言送る——何を話すかより「誰かに知ってもらう」ことが助けになります
- よりそいホットライン(0120-279-338)に電話する——24時間対応、話すことに慣れていなくても大丈夫です
- SNSやオンラインコミュニティを活用する——同じ経験をしている人のコミュニティを見つけることで、孤独感が和らぐことがあります(ただし自傷を推奨するコンテンツには近づかないようにしてください)
5. 「衝動リスト」を事前に作っておく
衝動が来たときはパニック状態になりやすく、「何をすればいいか」を考える余裕がなくなります。事前に自分に合う代替行動リストを作り、目に見えるところに貼っておくと効果的です。
【衝動リスト・記入例】
1. 氷を握る(冷凍庫にある)
2. 4-7-8呼吸を3回する
3. 信頼できる人に「今つらい」とLINEする
4. 好きな音楽を大音量で聴く
5. 走れるなら5分間走る
6. 10分たってもダメなら → よりそいホットライン 0120-279-338
「やめられなかった」ときの対応
代替行動を試してもうまくいかないことはあります。それは失敗ではありません。
- 自傷してしまった後は、傷の手当てをしてください(清潔に保ち、深い傷・止まらない出血は医療機関へ)
- 「また、やってしまった」と責めるのではなく、「今回は〇〇を試した」という事実に目を向けましょう
- 何がきっかけだったかを後で振り返る(日記・メモに書くなど)——パターンが見えると次の対処がしやすくなります
- 「やめようとした」こと自体が、すでに重要な一歩です
回復について:自傷行為をやめるプロセスは、多くの場合、直線的ではありません。減っていたのに増えてしまう時期もあります。それでも、諦めずに続けることが重要です。「今日はやめられた」という一日一日の積み重ねが、回復の道になっていきます。
自傷と自殺は同じではない
自傷行為をしている方の多くは、「死にたい」のではなく「今のつらさをどうにかしたい」と感じています。自傷は「生き延びるための手段」として機能していることも多く、「死にたい」という気持ちとは必ずしも一致しません。
ただし、自傷行為を繰り返しているうちにエスカレートしたり、背景にある精神的な苦しみが深まることで、自殺のリスクが高まる場合もあるため、専門家への相談が非常に重要とされています。
特に以下の状況では、速やかに専門機関に連絡することをおすすめします:
- 自傷の傷が深くなっている、または部位が増えている
- 「死にたい」「消えてしまいたい」という気持ちが出てきた
- 自傷の後でも気持ちが全く楽にならなくなった
- 誰にも相談できず、一人で抱え込んでいる
専門機関への相談——受診の仕方
「精神科に行くのが怖い」「何を話せばいいかわからない」という方が多いと思います。初診でよく聞かれることと、その答え方の参考をご紹介します。
初診前に準備できること(任意)
- いつ頃から自傷が始まったか
- どんなときに衝動が来るか(状況・感情・トリガー)
- 現在の生活状況(睡眠・食事・仕事や学校)
- 他に気になっている症状(眠れない、食欲がない、気力がわかないなど)
書けない場合は、「紙に書いてきたいけど書けなかった」とそのまま伝えて構いません。
受診時に伝えること
「自傷しているのですが、やめたいと思って来ました」——それだけで十分です。精神科医は、自傷行為について責めることはありません。むしろ、話してくれたことに感謝します。
受診先の選び方
- 精神科・心療内科——自傷行為や感情のつらさを専門に扱います。初診は予約が必要な場合が多いです
- 思春期・青年期専門外来——若い方向けの専門外来がある病院もあります
- 学生相談室・スクールカウンセラー——学校に在籍している方は、まずここに相談するのも良い選択肢です
家族や周囲の人への説明の仕方
自傷行為を家族や友人に知られたとき、または自分から話したいときの参考をご紹介します。
説明するときに伝えたいこと
- 「死にたいわけではないけど、つらくて自傷していた」
- 「やめたいと思っているけど、一人では難しい」
- 「怒ったり責めたりしないで、話を聞いてほしい」
- 「専門家に相談することを考えている」
家族・友人の方へ
もし大切な人が自傷していることを知った場合は、「なんでそんなことするの」「やめなさい」という言葉ではなく、まず「話してくれてありがとう」「一緒に考えよう」という言葉を選んでください。自傷について話すことは、その人にとって大きな勇気が必要なことです。詳しくは「「死にたい」と言われたとき、あなたにできること」もご参照ください。
回復には時間がかかる——それでも前に進める
自傷行為の回復は、多くの場合長いプロセスです。数週間でやめられる人もいますが、数年かかる人もいます。どちらが普通ということはありません。
回復の道のりには、以下のような段階があることが多いとされています:
- 気づきの段階——自傷していることに気づき、「変えたい」という意思が生まれる
- 準備の段階——代替行動を学んだり、相談する人を見つけたりする
- 実践の段階——代替行動を試し、うまくいったり失敗したりしながら続ける
- 維持の段階——自傷しない日が続くようになるが、ストレスがかかると揺り戻しがある
- 回復の段階——自傷以外の方法で対処できるようになる時間が増えていく
今あなたがどの段階にいても、「やめたいと思っている」という気持ち自体が、すでに回復の始まりです。
治療で使われる方法
- 弁証法的行動療法(DBT)——自傷行為に対する最もエビデンスが高い治療法として知られています。感情調節スキル・対人関係スキル・苦痛耐性スキル・マインドフルネスを体系的に学ぶプログラムです(Linehan et al., 2006)。週1回の個人療法と、グループでのスキルトレーニングを組み合わせて行います
- 認知行動療法(CBT)——自傷につながる「思考のパターン」を修正し、別の考え方や行動を学びます。感情と行動の関係に気づくことを目標にします
- 薬物療法——自傷そのものに対する特効薬はありませんが、背景にあるうつ病・不安障害・PTSD・境界性パーソナリティ障害などを治療することで、自傷衝動が和らぐことが多いとされています。具体的な薬については主治医と相談のうえ決定します
- 入院治療——自傷が重篤な場合や、生命の危険がある場合には、入院による治療が検討されることがあります。入院中は安全な環境で集中的に治療を受けられます
相談先
- 精神科・心療内科——自傷について話しにくくても「つらい」と伝えるだけで大丈夫
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- チャイルドライン(18歳以下):0120-99-7777(毎日16〜21時)
- チャット相談:困りごとSOS(電話が苦手な方向け)
まとめ
- 自傷行為は「つらさに対処するための行動」——感情調節の手段として機能している。自分を責めないでほしい
- 「やめられない」のは意志の弱さではなく、脳と身体のメカニズムが関係している
- 衝動のピークは15〜30分。氷・呼吸法・書き出し・運動・つながりなど、自分に合う代替行動を探してみよう
- やめられなかったときも「失敗」ではない。パターンを知ることが次の一歩
- 弁証法的行動療法(DBT)は自傷行為に対してエビデンスが高い治療法とされている
- 回復のプロセスは直線的ではなく、時間がかかることも多い。それでも、やめたいという気持ちは大切な一歩
- 一人で抱え込まず、相談窓口や精神科に話してみてください
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【免責事項】本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。この記事は医療相談に代わるものではありません。症状がある場合は医師にご相談ください。
著者:精神保健指定医・長友恭平(よつば加納クリニック院長)
参考文献
- Nock MK, Prinstein MJ. “A functional approach to the assessment of self-mutilative behavior.” J Consult Clin Psychol. 2004;72(5):885-890.
- Linehan MM, et al. “Two-year randomized controlled trial and follow-up of dialectical behavior therapy vs therapy by experts for suicidal behaviors and borderline personality disorder.” Arch Gen Psychiatry. 2006;63(7):757-766.
- Chapman AL, et al. “Solving the puzzle of deliberate self-harm: the experiential avoidance model.” Behav Res Ther. 2006;44(3):371-394.
- 松本俊彦「自傷行為の理解と援助」日本評論社, 2009.
- 厚生労働省「こころの健康相談統一ダイヤル」https://www.mhlw.go.jp/
🩺 院長コメント(長友 恭平)
「やめたい、でもやめられない」という状態で来院される方に、私は「やめなさい」とは言いません。まず自傷が何の役割を果たしているかを一緒に理解し、別の対処法を少しずつ見つけていく作業を共にします。回復に時間がかかっても、あなたのペースで一緒に歩んでいけます。
ちなみに、決定すること・考えること自体もコストです。毎日の食事選びをラクにしたい方は時短×健康ブログもどうぞ。
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