日本では成人の約3割が何らかの不眠症状を抱えているとされています。一口に「眠れない」といっても、その種類によって対処法が異なります。
不眠は放置すると、うつ病・不安障害・生活習慣病のリスクを高めるほか、日中の集中力・判断力・気力に影響を与えます。「眠れなくても仕方ない」と諦める前に、できることから見直してみましょう。
不眠症の主なタイプ
入眠障害:布団に入っても30分〜1時間以上眠れない。不安や緊張が強い方に多いです。「眠れないかもしれない」という不安そのものが眠りを妨げる悪循環になります。
中途覚醒:夜中に何度も目が覚める。加齢やアルコール習慣のある方に多いです。アルコールは寝つきをよくするように感じますが、睡眠を浅くして中途覚醒を増やします。
早朝覚醒:起きたい時間より2時間以上早く目が覚め、その後眠れない。うつ病に伴うことがあります。朝早く覚めてしまい日中気力がない状態が続く場合は、うつ病の可能性も考えられます。
熟眠障害:十分な時間眠っているのに眠った気がしない。睡眠の質の問題です。
不眠が続くとどうなるか
1〜2日の不眠は多くの人が経験しますが、不眠が慢性化すると以下のような影響が出てきます。
- 集中力・記憶力・判断力の低下
- 気分の落ち込み・イライラ
- 免疫機能の低下(風邪をひきやすくなる)
- 高血圧・糖尿病などの生活習慣病リスクの上昇
- うつ病・不安障害の発症リスクが高まる
睡眠衛生の改善から始める
- 起床時間を毎日一定にする(休日も)
- 寝床は眠るためだけに使う(スマホ・読書は別の場所で)
- 眠れなければいったん寝床を出て、眠くなってから戻る
- カフェインは午後以降控える
- 寝る前の入浴は就寝1〜2時間前に(深部体温を下げるため)
CBT-I(不眠に対する認知行動療法)とは
日本の睡眠障害ガイドラインでも、慢性不眠症に対する第一選択治療として認知行動療法(CBT-I)が推奨されています。CBT-Iでは以下のような取り組みを行います。
- 睡眠制限法:一時的に布団にいる時間を制限して、睡眠欲求を高める
- 刺激制御法:「布団=眠る場所」という条件づけを強化する
- 認知再構成:「眠れないとダメだ」という思い込みを緩和する
- リラクゼーション:腹式呼吸・漸進的筋弛緩法などで身体の緊張を緩める
薬による治療について
睡眠薬には複数の種類があり、タイプや副作用も異なります。日本では現在、オレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサントなど)や、メラトニン受容体作動薬が比較的副作用が少ない選択肢として処方されることがあります。ベンゾジアゼピン系薬は依存性のリスクがあるため、長期使用は慎重に考えられます。自己判断での服用・中断は避け、担当医に相談してください。
なりやすい方の特徴
不安傾向が高い方、完全主義的な方、交代勤務や夜型の生活リズムの方、更年期の女性などに多く見られます。また、うつ病・不安障害・痛みの疾患など他の病気に伴って不眠が出ることも多く、その場合は根本の疾患の治療が重要です。
受診のタイミング
- 不眠が3か月以上続いている
- 日中の眠気・集中力低下・気分の落ち込みが仕事や生活に支障を来している
- 市販の睡眠補助薬を使っているが効果が薄い
- 眠れないことへの強い不安がある
よくある質問
Q. 睡眠薬は一度飲み始めると止められなくなりますか?
A. 種類によって異なります。ベンゾジアゼピン系薬は身体的依存が生じることがあり、急な中断は症状の悪化を招くことがあります。一方、オレキシン受容体拮抗薬などは依存性が低いとされています。どの薬を使うか・どのようにやめるかは担当医に相談しながら進めてください。
Q. 「8時間眠らないといけない」は本当ですか?
A. 必要な睡眠時間は個人差があります。「7〜8時間」はあくまで目安であり、6時間でもスッキリ目覚めて日中の機能に問題がなければ十分な場合もあります。「何時間眠れたか」より「目覚めたときのスッキリ感」「日中の機能」を基準にすると楽になることがあります。
よつば加納クリニックでできること
よつば加納クリニック(心療内科)では、不眠症についての相談を受け付けています。不眠の背景には、ストレス・不安障害・うつ病・環境要因などさまざまな要因があります。原因を一緒に整理し、その方に合った対処法をご提案します。
- 不眠のタイプ・原因の評価と生活習慣の見直し支援
- CBT-I(不眠に対する認知行動療法)のエッセンスをお伝えする心理教育
- 必要に応じた睡眠薬のご提案(依存性の低い薬を優先した選択)
- 背景のうつ病・不安障害がある場合の総合的な治療
「睡眠薬をもらいたいだけなのに受診は大げさかな」と感じる方もいますが、慢性化した不眠は専門的なサポートで改善できることが多いです。お気軽にご相談ください。
セルフケアの参考に:
睡眠薬を使う際の注意点
「睡眠薬は一度飲んだらやめられなくなる」という不安をお持ちの方は多いですが、薬の種類や使い方によって大きく異なります。現在よく使われるオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント、レンボレキサントなど)やメラトニン受容体作動薬は、依存性が低く、短期間の使用なら安全に使える選択肢です。一方、ベンゾジアゼピン系薬は身体的依存が生じやすいため、長期連用は慎重に考えられます。どの薬を使うか、いつまで使うかは、担当医と相談しながら決めてください。
不眠と生活リズムの関係
人間の体内時計は約24〜25時間のサイクルで動いており、毎日同じ時間に起床して光を浴びることでリセットされています。休日に遅起きをすると体内時計がずれ、翌週の入眠・覚醒に影響することがあります(「社会的時差ぼけ」と呼ばれます)。不眠の改善には、週7日同じ時間に起きる習慣が最も基本的かつ効果的な生活改善のひとつとされています。最初は週末の睡眠不足感が増すように感じますが、2週間程度続けると体内時計が整ってきます。
不眠と精神疾患の関係
不眠症はうつ病・不安障害・PTSDなど多くの精神疾患に伴う症状として現れることがあります。また逆に、不眠が慢性化することでうつ病や不安障害を発症するリスクが高まることも示されています。「眠れない」状態が2週間以上続き、日中の気分の落ち込み・意欲低下・食欲変化・集中困難なども感じるようなら、うつ病の可能性もあるため、心療内科・精神科への受診をお勧めします。不眠だけでなく、気分・意欲・食欲など全体的な状態を診てもらうことが重要です。
睡眠の質を測る
「8時間眠れた」でも朝起きたときにぐったりしているなら、睡眠の「量」より「質」に問題があることがあります。睡眠の質に影響する要因には、睡眠時無呼吸症候群(いびき・昼間の眠気が強い方)、むずむず脚症候群(就寝時に脚が不快でじっとしていられない)などがあり、これらは睡眠専門外来や内科での検査が必要です。「十分眠ったのに疲れが取れない」という場合は、これらの疾患の可能性も考慮することをお勧めします。
不眠症と更年期の関係
女性の更年期(40〜55歳頃)は、エストロゲンの減少により体温調節機能が乱れ、のぼせ・発汗が夜中に出て覚醒する「中途覚醒」や「早朝覚醒」が増えやすくなります。更年期の不眠は、睡眠衛生の改善だけでは難しいことがあり、婦人科でのホルモン補充療法(HRT)の適用を検討することが有効な場合があります。また、抗うつ薬(低用量)が更年期のほてりと不眠の両方に効果を示す場合もあります。「更年期だから仕方ない」と諦めず、婦人科・心療内科への相談を検討してみてください。
不眠症と高齢者の睡眠変化
加齢とともに睡眠のパターンは変化します。深い睡眠(徐波睡眠)の割合が減り、早朝に目が覚めやすくなり、夜中の覚醒も増えます。これは老化に伴う生理的な変化ですが、日中の機能に大きな支障が出るようなら治療の対象となります。高齢者では睡眠薬の代謝が遅く、翌朝まで効果が残りやすいため、転倒リスクへの注意が必要です。種類・用量の選択に慎重さが求められます。「年だから眠れなくて当然」とは限らないため、気になる方は専門医に相談してみてください。
まとめ:よつば加納クリニックより
不眠は「我慢するもの」ではありません。種類や原因に合わせた対処法があります。眠れない夜が続いているなら、ぜひ一度ご相談ください。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状や治療については、必ず担当医にご相談ください。
監修: 精神保健指定医 長友恭平(よつば加納クリニック院長)
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